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診療部の紹介

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標準治療・治療成績について

標準治療と治療成績

はじめに

当センター呼吸器内科は、国内外で行われた臨床試験などで確立された国際標準的治療法を行うことに努めており、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン・アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインに準拠した診療をしています。肺がんの抗がん剤治療・放射線治療などの内科治療成績はまだ満足できるものではありませんが少しずつ向上してきています。さらに治療成績を向上させていくために、当センター呼吸器内科は特定非営利活動法人西日本がん研究機構(略称WJOG)や日本臨床腫瘍研究グループ(略称JCOG)などの多施設共同研究グループの中心施設のひとつとして積極的に活動しています。より優れた肺がんに対する治療法の開発とその確立をめざして多施設共同大規模臨床試験や治験に患者さんのご同意のもと積極的に参加しております。

はじめに

当科の診療範囲(守備範囲)

下表を参照ください

  検診 診断 治療 経過観察
胸部悪性疾患、胸部腫瘍
(肺がん、中皮種など)
×
胸部良性疾患
(肺気腫、喘息、間質性肺炎など)
× × ×
感染症
(結核、肺炎など)
× × ×

肺がん診療に関しては、抗がん剤治療や放射線治療などの積極的治療を主体に診療しております。手術を行う場合には呼吸器外科が担当します。積極的治療終了後や経過観察中の診療は地域に医療機関との連携の上で行わせていただいております。緩和治療については専門的な治療が必要な場合(気管支鏡下に腫瘍を焼灼するレーザー治療やステント治療(気道の狭窄・閉塞に対して)など)は当院で行いますが、体力維持での点滴治療や日常の対症療法などで入院や在宅診療が必要な際には地域の医療機関での対応をお願いしています。

標準治療について

当科では肺がんの抗がん剤治療と放射線治療が診療の主体です。肺がんは非小細胞肺がんと小細胞肺がんの二つに大きく分けて治療を行います。小細胞肺がんは全体の約15-20%を占め、残り80-85%は非小細胞肺がんです。小細胞肺がんは比較的転移や進行が速いことが多いため早期と考えられても抗がん剤治療を主体に治療します。非小細胞肺がんでは原則的にはⅠ期Ⅱ期は手術療法主体です。Ⅲ期では抗がん剤・放射線治療を組み合わせて治療することが多いですが、進行の仕方、場所、患者さんの全身状態による治療法のバリエーションが多く、手術を加える場合や抗がん剤治療のみの場合があります。Ⅳ期に対しては抗がん剤治療を主体に治療します。いずれの治療も副作用やリスクがあり年齢、体力、合併症など患者さんの状態や治療の希望などで治療方針は変わります。またどの時期であっても必要に応じて緩和治療を同時に行っていきます。診断がついた段階で抗がん剤治療のみが治療の選択肢になる患者さんがまだまだ多いのが肺がんの現状です。

肺がんの抗がん剤治療で合併症のない概ね70-75歳までの患者さんに対する標準治療はプラチナ(白金)製剤と他1種類の抗がん剤を組み合わせた2剤併用療法です。プラチナ製剤は比較的副作用が強く外来治療に適さないものが多いため、患者さんの状態や希望に応じてプラチナ製剤を用いない2剤併用療法を行うこともあります。高齢でも元気な患者さんについては抗がん剤を1種類だけ用いる単剤治療が標準治療になります。
放射線治療との併用療法を行う場合にもプラチナ製剤を含めた抗がん剤治療が標準治療であり、2剤併用が主体です。可能な限り抗がん剤治療の開始と同時に放射線治療も開始する同時併用の成績が良いとされています。

進行期の肺がんに用いられる抗がん剤治療の分野では最近、肺がんにおいて、発がんのメカニズムに関わる遺伝子の変化などについての研究が急速に進んでおり、個々の患者さんの発がんに関わる遺伝子の変化(発がんのメカニズム)が少しずつわかってくると同時に、その部分を特異的に狙った分子標的治療も行われるようになってきました。
肺がんを小細胞がん、非小細胞がんと二つのカテゴリーに分類して、それに合わせた治療を行う時代が長く続きましたが、最近では腺がん・扁平上皮がんという組織型によっても治療に使われる抗がん剤やその組み合わせが変わります。また、今まで主体として使われてきた多くの抗がん剤は、細胞の増殖過程に働きかけ、増殖を阻止し、細胞に障害を与えて細胞を死滅に導こうとするもので、治療前にその抗がん剤がその患者さんに効きやすいかどうかはわからなかったのですが、上述の分子標的薬については、患者さんのがん組織の遺伝子の変化を調べることにより、その薬が効きやすいかどうかをあらかじめ調べることが可能になってきています。

少しずつですが、一般臨床でも個別化治療が出来る状況になってきていますので、肺がんで抗がん剤治療を受ける患者さんには、肺がんの診断をつけたあとにがんに関わる遺伝子検査を受けて頂いて、治療方針を決めていくのが標準的になっており、当院でもこのような腫瘍の遺伝子検査を含めた正確な診断を元に個々の患者さんに個別の治療方針を提示しながら治療を進めていっております。

具体的にはEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異がある患者さんにはEGFR阻害剤(イレッサ®やタルセバ®)の効果が高いことが知られ、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)遺伝子転座(融合遺伝子)陽性の方にはALK阻害剤(ザーコリ®)の効果が高いことが知られています。これらの分子標的薬は場合によっては「劇的」な腫瘍の縮小がみられますが、今のところ抗がん剤だけでは肺がんを完治させることはできません。ですから、特定の遺伝子の変化がわかっている患者さんにも、分子標的薬だけでなく、通常の抗がん剤治療もいずれかの時期に使っていくことが多いです。最近では外来での抗がん剤治療も多く行われており、体力、合併症の問題がなければ、症状をできるだけコントロールしながら、体力を保って、うまく抗がん剤治療を続けながらできるだけ普通の生活を長く続けて頂くのが治療の目標になります。

治験・臨床試験について

当科ではよりよい医療を提供するとともに、肺がんをはじめとする胸部悪性腫瘍における新しい治療法や新しい治療薬を開発する試験を行っています。患者さんに参加頂いて新しい治療方法の効果や安全性を調べる試験を「臨床試験」といいます。私たちが現在標準治療として行っている治療法は、このような臨床試験によってその効果と安全性が確認されたものになります。しかし、肺がんの治療成績はまだまだ満足できるものではありませんので、より効果的な治療法を開発していくことは大変重要で、これらの臨床試験は病気の治療法が進歩していくのに不可欠のものです。また、厚生労働省の承認前の新しいお薬の効果と安全性を調べる臨床試験を「治験」といいます。「治験」は新しいお薬を世に出すために必要不可欠なものです。現在当院では新しい分子標的薬を含む新規薬剤の治験や新しい治療法の開発をめざす多施設共同の臨床試験を数多く行っております。最近では上述のEGFR,ALK以外の遺伝子変異を持った患者さんに対する分子標的薬の治験や、EGFR阻害剤やALK阻害剤が耐性になった方に対する治験が多く行われています。また肺癌領域でもがん細胞の特徴に根ざした免疫治療のお薬の効果が示されてきており、免疫治療の治験も多くなっています。(詳細は当院のホームページ内の「臨床試験(治験)について」をご覧ください)
臨床試験で確立されていない新しい治療を行う場合には、未知の副作用などを被る可能性はありますが、現在の標準治療よりすぐれた将来の標準治療や、新しい効果の期待できる新薬での治療が受けられる可能性もあります。臨床試験を治療として提示させて頂く場合には当科の担当医師から十分な説明をさせて頂き、十分な納得を得られた場合にのみ参加の同意を頂いております。

当科において実施中の臨床研究一覧(治験については「臨床試験(治験)について」に記載)

  研究タイトル 責任医師
1 WJOG7914LTR「非小細胞肺癌における次世代シークエンサーを用いたMultiplex
体細胞遺伝子変異解析と各種変異陽性例の予後解析研究」
里内
【研究内容】未治療IIIB/IV期非小細胞肺癌に対するカルボプラチン/TS-1併用療法とカルボプラチン/パクリタキセル併用療法の無作為化第III相試験(LETS study)におけるバイオマーカー研究(WJOG6611LTR)に参加頂き、組織検体を提出させていただいた方のサンプルのうち、まだ検体が余っている方に関して次世代シーケンサーで体細胞遺伝子変異検索および融合遺伝子検索を行い治療効果や予後との相関を見る研究です
2 非小細胞肺癌患者に対するRe-Biopsyの実際調査 里内
【研究内容】EFGFR遺伝子変異陽性でBFRチロシンキナーゼ阻害剤(イレッサ、タルセバ)を使用して進行が認められた患者さんで、2013年以降に再生検を行った患者さんを対象に診療録(カルテ)等から、患者さんの背景因子や再生検に関連する項目を調査報告する研究です。
(本研究はアストラゼネカ社からの資金提供を受けて行われています)
3 切除不能局所進行非小細胞肺癌患者におけるシスプラチンとS-1またはビノレルビンを用いた化学放射線療法に関する後方視的検討 高瀬
【研究内容】以前に切除不能局所進行非小細胞肺癌患者におけるシスプラチンとS-1またはビノレルビンを用いた化学放射線療法を行った患者さんで、治療効果と安全性について振り返って検討する(後方視的)研究です。主に診療録(カルテ)より情報を集めて、そのデータを匿名化して解析を行います。
4 Epidermal Growth Factor-Tyrosine Kinase Inhibitor (EGFR-TKI)耐性クローンにおける癌幹様細胞と老化細胞の相関関係に関する研究 里内
【研究内容】以前に初回治療としてEGFR-TKIによる治療を行った非小細胞肺がんの方で、治療後にEGFR-TKIの効果がなくなった時に再生検をされた方の検体において、耐性化の原因として癌幹様細胞や老化細胞が関与しているかどうかを調べる研究です。再生検された方の検体を匿名化し、神戸大学医学部付属病院呼吸器内科にて解析します。

なお、上記の試験への参加をご希望されない方は辞退することが可能ですので、主治医もしくは責任医師までご相談ください。その他試験についてご不明な点などございましたら、責任医師もしくは主治医までお気軽にお問い合わせ下さい。

治療成績について

当センターで診断する肺の悪性腫瘍と診断された患者さんは平成23年度383名でした。当呼吸器内科が直接治療に関わった症例はその中でも193名(50.4%)でした。1年間の新規、再発肺がん患者さんの治療目的での呼吸器内科入院の総数は301人でした。また、悪性胸膜中皮種の患者さんは3人でした。抗がん剤治療は何コースか繰り返して行い、内服薬では効果がある間は継続するものが多いのですが、治療の1コース目や副作用が強い場合は入院治療(入院する場合も短期入院を繰り返すことが多く、長期の入院は少なくなっています)を行いますが、治療してみて副作用が少なければ外来で治療を継続することが多くなっています。
標準治療については前項:「標準治療について」で述べたとおりですが、実際の患者さんでは一人一人状況(年齢、合併症、転移の状況なども含めた進行の度合い)が異なり、全員に画一的治療をおこなうわけでありません。進行度・治療方法・使用した治療薬によって治療成績は変わりますのでそれらを一緒にまとめた治療成績をみてもあまり参考になりません。多くの患者さんの診療をさせていただいている当科でも細分化させた治療ごとの成績とすると患者さんの数が少なく参考になりがたいのが現実です。現在の日本がん専門病院での治療成績などは全国がん(成人病)センター協議会加盟施設の生存率協同調査を参考にしてください。

もともと、個々の体力や、合併症、転移などの状況で治療成績も様々なのですが、組織型や最近わかってきた遺伝子変異の状況によっても肺がんの治療成績は大きく異なってきており、最近の肺がんの臨床試験は組織型・遺伝子変異の状況で細分化されつつあります。すでに結果が公表されている試験の結果を列挙すると、
①当院も参加している西日本胸部腫瘍臨床研究機構(略称WJTOG)で行った非小細胞肺がんで組織型や遺伝子変異にかかわらずプラチナ併用療法(カルボプラチン、TS-1併用療法かカルボプラチン、パクリタキセル併用療法)を行った場合の生存期間中央値は13.3—15.2ヶ月
②WJTOGで行ったEGFR遺伝子変異陽性の肺がんを対象とした試験では初回の治療としてEGFR阻害剤(イレッサ®)で初回治療をされた場合の生存期間中央値は35.5ヶ月、プラチナ併用療法であるシスプラチンとドセタキセルの併用療法を行った場合(90%の患者さんで再発後にイレッサ®使用)は38.8ヶ月
③当院を含む日本のがん専門施設で行った非扁平上皮がんで血管新生阻害剤(アバスチン®)が使用できる患者さんを対象とした、カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチンもしくはカルボプラチン+パクリタキセル併用療法を行った臨床試験での生存期間中央値は22.8-23.4ヶ月
④JCOG で行われた進展型小細胞肺がんを対象としたシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法における生存期間中央値は17.7ヶ月
でした。このように同じような医療機関で行われた同時期の臨床試験であっても、対象とする患者さんのがんの種類(組織型や遺伝子の変化の状況)で治療成績が大きく異なってきており、個々の患者さんとなるとさらに年齢や合併症の問題もあるわけですから、治療を受けられる場合には正確にがんの診断(種類と広がり)をつけて、体調の把握行った上で治療方針を個々に話し合って決定していく必要があり、その効果も様々ですので、公表されている治療成績がそのまま患者さん個々人に当てはまるわけではありませんので、参考程度にみていただくことになると思います。

全国肺癌登録調査について

当科では、倫理審査委員会承認のもと、全国肺癌登録調査(2012年内科症例に対する登録研究)に協力しています。本邦における肺癌の統計および追跡調査を行うことにより、肺癌に関する研究ならびに診療の進歩・普及を図ることを目的としています。患者様の個人情報は保護されます。登録調査の詳細につきましては、日本肺癌学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器外科学会のホームページで閲覧できます。また、登録を希望されない場合には、担当医にお知らせください。